けいたさん、心電図で「心房粗動」って表示されてたんですけど…
正直、心房細動と何が違うのかよくわからなくて。
新人看護師
りさ
お、いいところに気づきましたね。“AF(心房細動)”と“AFL(心房粗動)”は、どちらも心房が速く動く「上室性頻脈」なんですが、電気の流れ方がちょっと違うんです。
心電図講師
けいた
電気の流れ方…?どう違うんですか?
今日はそのあたりを、順番にわかりやすく説明していきましょう。まずは、基本からです!
まず押さえておきたいのは、AFL(心房粗動)は上室性頻脈の一つということです。
つまり、電気の出どころが「心房(=房室結節より上)」にあるタイプの頻脈なんです。心房がぐるぐると速く興奮していて、その結果、心室にもリズムが伝わって脈が速くなります。
じゃあ、心室が悪いわけじゃなくて、心房側の電気が暴走してるんですね?
その通りです。AFLは、心房の中で“電気が回り続ける回路”ができてしまっている状態。この“ぐるぐる回る”という性質が、AFLの最大の特徴なんです。
“回路”って、どこを回ってるんですか?
いい質問ですね。
AFLの多くは、右心房の中で、三尖弁という弁の周囲をぐるぐると電気が回るタイプなんです。
特に多いのは「反時計回り(counterclockwise)型」。これは、三尖弁と下大静脈の間にある細い道「CTI(Cavotricuspid Isthmus)」を通って、ぐるっと旋回している状態です。
おお…心房の中に“ぐるぐる回る道”があるなんて。
ちなみに、すべてのAFLがこのルートではありません。中には時計回りに回るタイプや、左心房の中を回る特殊なタイプもあります。
ただし、現場でよく見るAFLは、右心房・反時計回り型が圧倒的に多いです。
あ!この前のモニター、P波がギザギザになってたかも…
それがまさにAFLの特徴です!
電気が同じルートを高速でグルグル回っていると、一定間隔で心房が興奮し続けるので、心電図上では「鋸歯状波形」が見えます。
特に、Ⅱ、Ⅲ、aVF誘導でギザギザがはっきり出るのがポイントです。P波というよりも“F波”とも呼ばれ、基線から連続したうねりのように見えます。
見た目でも、AFとはだいぶ違うんですね。
でも、P波が見えないってどういうことですか?心房が興奮してるなら、P波出るんじゃ…?
いいところに気づきましたね。
確かに、AFLでは心房は規則的に興奮してるんですが、電気が“グルグル回っている”状態なので、通常のP波とは違うんです。
通常のP波は、「洞結節」から出た電気が心房を一気に興奮させて、1つの波として現れます。でもAFLでは、電気がぐるぐる旋回して心房を繰り返し興奮させているので、P波という1つのまとまった波にならず、連続した鋸状のF波になるんです。
なるほど…波形が違うっていうか、もう別物になってるんですね。
しかもこのF波はけっこうしっかり大きく見えるので、“P波がない=AF”と決めつけずに、F波の形を見極めるのが大切です。
さっき「電動比」って言ってましたよね?なんとなく伝わるような気もするんですが…もうちょっと詳しく聞いてもいいですか?
AFLの電気信号は、心房を1分間に250〜350回くらい興奮させているんですが、それがそのまま心室に全部伝わったらどうなると思います?
えっ!?全部伝わったら…1分間に300拍とかになっちゃうんですか!?
そうなんです。
でもそこを房室結節(AV node)がうまく調整してくれているんですね。全部は通さず、2回に1回だけ通したり、3回に1回だけ通したりして、心室へ送る数を調整してくれるんです。
この比率のことを「電動比」って言います。たとえば、「2:1伝導」だったら、心房が2回興奮するうちの1回だけ心室に伝えるということ。この場合、心拍数はだいたい150/分くらいになります。
なるほど〜!勝手に調整してくれてるなんて…房室結節、すごいですね!
ただし、伝導比が途中で変化したり、バラついたりすることもあります。AFLはF波が整って見えても、QRSのリズムが突然変わることがあるんですね。そういうときは、伝導比の変化を疑うといいですよ。
AFLは、「上室性頻脈」の一つとして、臨床の現場でもよく見かけるリズムです。
F波が鋸状に並ぶ特徴的な波形や、電動比によるQRSの整った速い頻脈など、一見わかりやすいようで、見逃されやすいリズムでもあります。
治療方針も、症状や背景によって変わってくるので、「AFLかも?」と思ったら、12誘導心電図を記録することが第一歩です。
波形の特徴や仕組みがわかると、「なんか速いな…?」で終わらせずに、ちゃんと“意味のある観察”ができそうです!
その気づきが、患者さんの予後を変えることもありますからね。“波形の奥にあるストーリー”を一緒に読み解いていきましょう!
はい、今日もありがとうございました〜!
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