けいた先生、「房室ブロック」ってよく聞くんですけど、どんな状態なんですか?
新人看護師
りさ
簡単に言うと、心房で生まれた電気が心室にうまく伝わらない状態です。房室結節やヒス束あたりで“通り道が詰まる”イメージですね。
心電図講師
けいた
電気の渋滞みたいな感じですか?
そうです。しかもその“詰まり方”には3段階あります。
第1度:遅れて通る。
第2度:たまに通らない。
第3度:まったく通らない。
心房と心室の“伝わり方のズレ”を見るのが、房室ブロックを理解するカギになります。
まず第1度房室ブロック。
電気は全部通りますが、PR間隔が0.20秒以上に延びる。いわば“ゆっくり通るだけ”で、症状はほぼありません。
軽めのブロックですね。
次に第2度房室ブロック。
P波は出てるのに、ときどきQRSが抜ける。「ウェンケバッハ型(Mobitz I)」は徐々に遅れて脱落、「Mobitz II型」は突然抜けるタイプで、進行すると危険です。
前触れなしは怖いですね…。
最後は第3度房室ブロック。
心房と心室が完全にバラバラに動く状態です。QRSが遅く、失神やアダムス・ストークス発作を起こすこともあります。この場合は緊急ペーシングが必要です。
同じ“ブロック”でも、かなり差がありますね。
そうなんです。
大事なのは「P波とQRSの関係」を見ること。それが分かれば、房室ブロックの段階も自然に読めるようになりますよ。
けいた先生、第1度房室ブロックって、どんな状態なんですか?
一言で言えば、電気が心室まで毎回ちゃんと届いているけど、少し遅れている状態です。
心電図では、PR間隔が0.20秒(小マス5個)より長いのが特徴です。つまり、P波のあとにQRSは必ず出てるけど、その間がちょっと伸びてるんですね。多くは房室結節での伝導がゆっくりになっているだけで、症状はありません。
じゃあ、治療は特に必要ないんですか?
基本的には経過観察で大丈夫です。
ただ、PR間隔が極端に長くなると、心房と心室のタイミングがずれて心拍出量が下がることもあります。また、β遮断薬やCa拮抗薬、ジギタリスなど、房室伝導を抑える薬を使っている場合は注意が必要です。
なるほど、つまり“渋滞してるだけ”ってことですね。
そうです。通行止めではなく“スピード制限”。
波形の見方は「PRが長いけどP波ごとにQRSがある」──これだけ覚えておけばOKです。
けいた先生、第2度房室ブロックって「時々通らない」って聞いたんですけど、どういうことですか?
その通りです。P波は出ているのに、時々QRSが抜けるのが第2度房室ブロックです。つまり、心房から心室への電気が“たまに届かない”状態。大きく分けて2つのタイプがあって、ウェンケバッハ型(Mobitz I)とMobitz II型に分かれます。
どう違うんですか?
OKです!説明します!
ウェンケバッハ型は、PR間隔が少しずつ長くなって、ついにQRSが抜けるタイプです。房室結節での疲労現象みたいなもので、比較的軽いブロックです。
一方でMobitz II型は、PR間隔が一定なのに突然QRSが抜ける。これはヒス束や脚の障害によるもので、完全房室ブロックに進行する危険性が高いタイプです。
同じ“時々通らない”でも、危険度が全然違うんですね。
そうなんです。第2度では、抜け方が「徐々に」なのか「突然」なのかが重要。“だんだん遅れて脱落”なら様子観察、“急に抜ける”なら要注意、と覚えておくと現場でも役立ちますよ。
けいた先生、3度房室ブロックって“完全に伝わらない”って聞いたんですけど、どういう波形になるんですか?
ここは重要です!
第3度は、心房からの電気がまったく心室に届かない状態です。つまり、心房は自分のペースで動き、心室も自分のリズムで動く──心房と心室が完全にバラバラになります。心電図では、P波とQRSが全く関係なく出現し、それぞれ独立して並んで見えるのが特徴です。
P波とQRSが“会話してない”みたいな感じですね。
まさにその通りです。心室は自分で拍動するので、**脈が非常に遅く(30〜40回/分)**なり、めまいや失神を起こすこともあります。これを「アダムス・ストークス発作」と言って、緊急ペーシングが必要になるケースです。
もう“通行止め”どころか、別々の道を走ってる感じですね。
その表現、ぴったりです。第3度房室ブロックは“完全な分断”。見つけたらすぐに報告──これが現場で一番大事なポイントです。
けいた先生、3度房室ブロックでは心室が自分で動くって言ってましたけど、それってどういう仕組みなんですか?
いいところに気づきましたね。心房からの電気がまったく届かなくなると、心室は「このままじゃ止まっちゃう」と判断して、自分で電気を出し始めるんです。これを補充収縮(escape beat)、あるいは補充調律(escape rhythm)といいます。
へぇ、そんな“予備電源”みたいな仕組みがあるんですね。
そうです。例えば房室結節やヒス束の下で電気が途絶えたとき、心室の細胞が自動的にペースメーカーの役割を果たしてくれます。ただしこの拍動は遅く、30〜40回/分程度。一応は命をつなぐ働きですが、血圧が保てないことも多いので、やはりペーシングでサポートが必要になります。
なるほど…。心臓って、ちゃんと“最悪のときの対策”まで考えられてるんですね。
そうなんです。房室ブロックは「伝わらない異常」ですが、補充収縮は「それでも動こうとする力」。この仕組みを知っておくと、波形を見たときに“生命維持のギリギリの努力”が見えるようになりますよ。
けいた先生、房室ブロックって聞くと“怖い不整脈”って感じがしてたんですけど、今日の話で少し印象が変わりました。
そう感じてもらえたなら嬉しいです。房室ブロックは、たしかに重症化すれば危険ですが、心臓がどう電気を伝えているかを理解すれば、波形の意味もちゃんと見えてきます。“なぜPRが延びるのか”“なぜQRSが抜けるのか”──それぞれに生理的な理由があるんです。
なるほど…ただの波形の違いじゃなくて、“心臓が何を伝えようとしているか”を見る感覚なんですね。
その通りです。房室ブロックは、心房と心室の“連携の乱れ”の物語。第1度では「遅れてでも伝えようとする努力」、第2度では「ときどき届かない葛藤」、第3度では「完全に断たれてもなお動こうとする補充の力」。その一つひとつに、心臓の意思のようなものを感じられると、波形が“ただの線”ではなくなります。
うわ…なんかちょっと感動しました。次に房室ブロックの波形を見たとき、少し違って見えそうです。
いいですね。臨床では、怖がるより“なぜそう見えるのか”を考えることが大事です。波形を読むというのは、心臓の声を聴くことなんです。
心電図って、そう考えるとすごく奥深いですね。
本当にそう思います。この章で一通りの「房室ブロックの世界」を歩きましたが、次に現場で波形を見たときは、ぜひ心臓の“伝えたいサイン”を探してみてください。
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