臨床検査技師国家試験の第67回を解説します【午前(AM) 問66~問70】
カリスマ検査技師K

こんにちは!
病院で働く現役の臨床検査技師『けいた』と申します。

午前(AM) 問66

広範な皮下出血とAPTT延長が認められたのでAPTTの交差混合試験を実施した。
結果を表に示す。考えられるのはどれか。
1.後天性血友病A
2.ビタミンK欠乏症
3.von Willebrand病
4.アレルギー性紫斑病
5.播種性血管内凝固(DIC)

答えはコチラ
1.後天性血友病A

 

 

解説

まず、問題文の「広範な皮下出血」と「APTT延長」より出血性疾患を考えます。
次に交差混合試験(クロスミキシング)の結果を表に書き出してみます。


※青線が混和直後、オレンジ線が37℃・2時間後の結果を示しています。

この表より、上に凸のグラフであることがわかりますね。
つまり、患者血清中に凝固因子インヒビターが存在し、正常血漿を加えていっても凝固時間の延長が回復しないことを示します。
1.後天性血友病Aは凝固因子第Ⅷ因子に対する自己抗体(第Ⅷ因子インヒビター)が出現することにより、APTTのみが延長します。
血小板数や血小板機能、PTは正常です。
したがって1 が正解となります。

2 ビタミンK欠乏症
ビタミンK欠乏症ではビタミンK依存性凝固因子(半減期の短い順に第Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ・Ⅱ因子)が低下します。
これらの凝固因子の欠乏はAPTT、PTのどちらにも反映されますが、半減期の短い第Ⅶ因子が反映されるPTの方が、ビタミンK欠乏を鋭敏に捉えます。
そのため早期の欠乏症ではPT延長のみ、重度の欠乏症ではAPTT、PTどちらも延長します。
凝固因子の欠乏のため、交差混合試験では下に凸のグラフとなります。
ちなみにビタミンK依存性凝固因子の覚え方には「肉納豆」や「鳴くとニー」などがありますが、半減期も考慮された「鳴くとニー(Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ・Ⅱ)」で覚える方がおすすめです。

3 von Willebrand病
von Willebrand 病では血小板が血管内皮と粘着するのを仲介したり、第Ⅷ因子を輸送しているvon Willebrand因子(VWF)の質的・量的異常により起こる疾患です。
VWFの異常により出血時間の延長、第Ⅷ因子不活性によるAPTTの延長が見られます。
凝固因子の異常によるAPTTの延長のため、交差混合試験では下に凸のグラフとなります。

4 アレルギー性紫斑病
アレルギー反応により毛細血管の透過性亢進をきたし、組織への浮腫と出血が生じる疾患です。
IgA型免疫複合体が関与する全身の細小血管炎によるⅢ型アレルギーであり、血液自体に異常のある疾患ではありません。

5 播種性血管内凝固(DIC)
DICは基礎疾患などによりサイトカインや組織因子が大量に産生され、血小板や凝固因子などが活性化されて微小血栓が多発して臓器障害が起こる病態です。
出血時間、APTT、PT全てにおいて延長が見られます。

午前(AM) 問67

末梢血のWright-Giemsa染色標本とエステラーゼ二重染色標本を別に示す。
最も考えられるのはどれか。
1.急性赤白血病
2.急性単球性白血病
3.急性巨核芽球性白血病
4.急性前骨髄球性白血病
5.急性リンパ芽球性白血病

答えはコチラ
2.急性単球性白血病

 

 

解説

まず末梢血のAの画像から見ていきましょう。
Aでは赤血球を背景に大型で豊富な細胞質を持つ異常血球が見られます。
この血球の核をよく見てみるとやや切れ込んでいるような不整が見られます。
次にエステラーゼ二重染色標本のBの画像を見てみましょう。
細胞質が茶褐色に染色されていることがわかります。
これは非特異的エステラーゼ染色のみが陽性特異的エステラーゼが陰性であることを示します。
つまり単球系細胞が増加しているということです。
したがって2 急性単球性白血病が考えられます。
急性単球性白血病は急性骨髄性白血病のM5で、全有核細胞の80%以上を単球系細胞が占め、単芽球系細胞の80%以上を占める未分化型(M5a)と、単芽球系細胞が単球系細胞の80%未満の分化型(M5b)に分類されます。
前者ではミエロペルオキシダーゼ(MPO)染色が陰性のため、非特異的エステラーゼ染色が診断に重要です。

1.急性赤白血病
急性赤白血病は急性骨髄性白血病のM6で、全有核細胞の50%以上が赤芽球で非造血細胞の20%以上を骨髄芽球が占めた場合に診断されます。
赤芽球は大型で細胞質は好塩基性が強く巨赤芽球様変化など形態異常を有します。この異常赤芽球は正常な赤芽球は染まらないPAS染色で陽性になることも重要です。

出典:「急性赤白血病」(BECKMAN COULTER)
https://www.beckmancoulter.co.jp/dx/blog/blog_detail_00008/

3.急性巨核芽球性貧血
急性巨核芽球性貧血は急性骨髄性白血病M7で、全有核細胞の30%以上が巨核芽球で締められた場合に診断されます。
光学顕微鏡でMPO陰性、電子顕微鏡でMPO陽性であることが特徴です。
芽球は全体的に大型で大小不同があり、細胞表面に偽足様突起が見られることがあります。

出典:「Category 4. 巨核球性白血病(M7)」(ネットで形態 血液形態自習塾)
https://www.beckmancoulter.co.jp/dx/quiz_past/hematology/oneself/part03/self3_26.html

4.急性前骨髄球性白血病
急性前骨髄球性白血病ではAuer(アウエル)小体を有する前骨髄球やファゴット細胞が特徴的です。
Auer小体はアズール顆粒が結晶化したもので、白血病芽球の細胞質に見られる紫赤色の針状・棒状構造物です。
ファゴット細胞はAuer小体が束状に認められる細胞でM3に特徴的な所見です。

出典:「Categoly 1. 前骨髄球性白血病 M3」(ネットで形態 血液形態自習塾)
https://www.beckmancoulter.co.jp/dx/quiz_past/hematology/oneself/part03/self3_09.html

5.急性リンパ芽球性白血病
急性リンパ芽球性白血病ではN/C比が高く、小型から中型のリンパ芽球が腫瘍性に増殖します。
白血病芽球はMPO陰性、エステラーゼ染色陰性となります。
またL3では芽球が特徴的な空胞を有します。

出典:「急性リンパ性白血病」(Wikipedia)
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/急性リンパ性白血病

午前(AM) 問68

銀液を使用するのはどれか。2つ選べ。
1.核膜を有する。
2.有糸分裂する。
3.環状の染色体を有する。
4.ミトコンドリアを有する。
5.細胞壁はセルロースからなる。

答えはコチラ
3.環状の染色体を有する。

 

 

解説

真核生物とは、核膜の中に染色体を有する核を持つ細胞からなる生物のことで、真核生物以外の生物は原核生物と呼ばれます。
以下は真核生物と原核生物の違いをまとめた表です。

 

1.核膜を持たない
核膜を持たないことが原核生物の大きな特徴の1つです。
核膜を持つのは真核生物です。

2.無糸分裂する
無糸分裂は原核生物の細胞分裂様式で、染色体や紡錘糸の形成を伴わない分裂です。
有糸分裂は真核生物の細胞分裂様式です。染色質が凝集して染色体を形成し、顕微鏡で観察されるようになります。

3.環状の染色体を有する。
原核生物では環状、つまりわっかの染色体を持っています。
真核生物ではDNAがヒストン蛋白によって折り畳まれた染色体として核内に存在しています。

4.ミトコンドリアを持たない
ミトコンドリアなどの細胞小器官は原核生物には存在しません。

5.細胞壁はペプチドグリカンからなる。
原核生物の細胞壁はペプチドグリカンからなります。
一方、真菌などの真核生物の中で細胞壁を持つ生物の細胞壁はβ-D-グルカン、マンナン、キチンから構成されています。

午前(AM) 問69

銀液を使用するのはどれか。2つ選べ。
1.SS寒天培地
2.CCFA寒天培地
3.TCBS寒天培地
4.セレナイト培地
5.Skirrow培地

答えはコチラ
1.SS寒天培地 3.TCBS寒天培地

 

 

解説

1. SS寒天培地
Salmonella属菌、Shigella属菌の分離培養に用います。
両方の頭文字を取って「SS」です。
選択物質として胆汁酸塩、クエン酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムを含みます。

2. CCFA寒天培地
Clostridioides difficileの分離培養に用います。
選択物質としてサイクロセリン、セフォキシチンを含みます。

3. TCBS寒天培地
Vivrio属菌の分離培養で用い、白糖分解の有無でVivrio属菌を鑑別することができます。
高い培地のpH(8.8)とチオ硫酸ナトリウムやクエン酸ナトリウムにより、Vivrio属菌以外の腸内細菌科細菌の発育を、胆汁酸塩によってグラム陽性菌の発育を抑制します。

4. セレナイト培地
Salmonella 属菌、Shigella属菌の分離培養に用います。
選択物質として亜セレン酸ナトリウムを含みます。

5. Skirrow培地
Campylobacter 属菌とHelicobacter属菌の分離に用います。
選択物質として抗菌薬3種(バンコマイシン、ポリミキシンB、トリメトプリム)が含まれています。

培地に含まれている成分は意外と出題されやすいのでしっかり押さえておきましょう!

胆汁酸を含む培地

・SS寒天培地
・TCBS寒天培地
・BBE寒天培地
・XLD寒天培地
・胆汁エスクリン寒天培地

抗菌薬を含む培地

・Thayer-Martin培地(コリスチン、バンコマイシン、ナイスタチン)
・CIN培地(セフスロジン、ノボビオシン、イルガサン)
・Skirrow寒天培地(バンコマイシン、ポリミキシンB、トリメトプリム)
・NAC寒天培地(セトリマイド、ナリジクス酸)
・WYOα寒天培地(グリシン、ポリミキシンB、アムホテリシンB)
・CCFA寒天培地(サイクロセリン、セフォキシチン)
・PPLO寒天培地(ペニシリン)
・CHROMagar MRSA(セフォキシチン)

午前(AM) 問70

銀液を使用するのはどれか。2つ選べ。
1.コリスチン
2.ゲンタマイシン
3.バンコマイシン
4.レボフロキサシン
5.クロラムフェニコール

答えはコチラ
3.バンコマイシン

 

 

解説

1.コリスチン
コリスチンはポリペプチド系抗菌薬です。グラム陰性菌のリポポリサッカライド分子との静電的相互作用により、細菌外膜の安定性を低下させ、細菌外膜に障害を引き起こします。

2.ゲンタマイシン
ゲンタマイシンはアミノグリコシド系抗菌薬です。蛋白合成阻害作用と細胞質膜障害により殺菌的に作用します。
嫌気性菌には無効であることと腎臓と聴神経に毒性があるためTDMが必要な薬であることが特徴です。

※TDMとは

Therapeutic Drug Monitoring の略で、治療薬物モニタリングと訳される。
治療効果や副作用に関する因子をモニタリングしながらそれぞれの患者に個別化した用法・用量を設定することを目的とする。

3.バンコマイシン
バンコマイシンはグリコペプチド系抗菌薬です。
細胞壁を構成するD-Ala-D-Alaと結合し、その働きを阻害することで細胞壁合成を阻害します。
多くのグラム陽性菌には有効ですが、陰性菌には無効です。これは陰性菌には外膜が存在するため、ペプリドグリカン層に到達できないことに起因します。
またこちらも薬剤の血中濃度において有効域と中毒域が近いため、TDMを行う必要があります。

4.レボフロキサシン
レボフロキサシンはニューキノロン系抗菌薬です。
DNAジャイレース(細菌のDNA複製に欠かせない酵素の一つ)を阻害し、殺菌的に作用します。
体内動態に優れ、組織移行性が良く、広域スペクトルで、経口薬と優れた薬であるため、外来で多用されます。しかしそれによって耐性菌が増加してしまっていることが問題となっています。

5.クロラムフェニコール
クロラムフェニコールはタンパク質合成阻害で、静菌的に作用します。
リボソーム50Sサブユニットに結合し、t RNAの結合を阻害します。

 

抗菌薬作用機序のまとめ

 

細胞壁合成阻害

「もぐもぐほっぺかせ」

・も→モノバクタム系:アズトレオナム
・ぐ→グリコペプチド系:バンコマイシン、テイコプラニン
・ほ→ホスホマイシン系:ホスホマイシン
・ペ→ペニシリン系:アンピシリン、ペニシリン
・か→カルバペネム系:イミペネム、メロペネム
・せ→セフェム系:セファゾリン、セフメタゾール

β―ラクタム系

「もっぺかせ」

・も→モノバクタム系
・ぺ→ペニシリン系
・か→カルバペネム系
・せ→セフェム系

蛋白合成阻害

「あくまおりて」

・あ→アミノグリコシド系:ゲンタマイシン、アルベカシン、アミカシン
・く→クロラムフェニコール系:クロラムフェニコール
・ま→マクロライド系:エリスロマイシン、クラロリスロマイシン
・お→オキサゾリジノン系:リネゾリド
・り→リンコマイシン系:クリンダマイシン
・て→テトラサイクリン系:テトラサイクリン、ミノサイクリン

※ 静菌的作用=蛋白合成阻害

→アミノグリコシド系以外の蛋白合成阻害薬
※アミノグリコシド系は細胞質膜障害の作用もあるため殺菌的に作用する。

細胞質膜障害

・ポリペプチド系:コリスチン、ポリミキシンB
・アミノグリコシド系

核酸合成阻害

・DNA:ニューキノロン系:オフロキサシン、レボフロキサシン
・ENA:リファンピシン

TDMを行う薬剤

・グリコペプチド系
・アミノグリコシド系

 

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